- 実験動物の対物攻撃行動を機械で計る・Calculating aggressive behavior towards inanimate objects using a machine
- 精神疾患モデルマウスの攻撃行動を調べる・Analysis of aggressiveness in psychiatric model mice
- 光くしゃみ反射
Photic Sneeze Reflex - 特定の脳神経細胞に薬を届ける
- 脳の局所血流調節を司る細胞
- 頭部・顔面・口腔領域の血流調節
- 血管調節細胞と分泌調節細胞の形態差
- 副毛様体神経節の発見
- 副毛様体神経節の解剖学
- 今も続くダイオキシン汚染
- ダイオキシンの次世代への脳影響
- ダイオキシンによる前脳の異常
- ダイオキシンによる脳エンケファリン異常
- ダイオキシン摂取による拒食症
- 一酸化窒素が摂食とエネルギーバランスに関係する?
私たち研究グループの研究・Research of our group
ダイオキシン摂取による拒食症
ダイオキシン類の急性毒性の最も顕著な症状の一つは、進行性の摂食抑制(拒食症)です。ダイオキシンの急性摂取では 拒食症状が進行して体重が減少し 場合によっては死に至りますが、この症状の発症機序に関する見解は研究者間で一致しませんでした。有力な説の一つは、ダイオキシン類が中枢の摂食中枢に直接働きかけるのではなく、末梢に発生する何らかの機序によるものだとする説です。これに対して、ダイオキシン投与によりラットの中枢セロトニン量が増加することが摂食抑制の原因であるとする説も有力でした。セロトニンは食欲抑制の調節に関係するとされているからですが、拒食症発症ラットにセロトニン選択的拮抗薬を投与しても拒食症が改善しませんので、私たちは、セロトニンはダイオキシンによる拒食症の主たる原因ではないと推察し、いずれの説もダイオキシンによる拒食症の機序を説明する確定的推論には到達していないと考えました。私たち研究グループは、次の可能性として、一酸化窒素がダイオキシン拒食症の機序に関係するのではないかと推論しました。一酸化窒素は摂食と消化管活性の重要な調節因子であることが知られている神経活性物質だからです。私たち研究グループは、この物質のダイオキシンによる拒食症との関連にヒントを得るために免疫組織化学法およびウェスタンブロット法を用いて調査を行いました。
一酸化窒素は、一酸化窒素合成酵素によって触媒されアルギニンから合成されます。一酸化窒素の半減期は非常に短いため、組織中で一酸化窒素そのものの存在を証明することは困難です。そこで一般には、一酸化窒素合成酵素の局在またはその特異標識物質であるNADPH-diaphoraseの局在を一酸化窒素の組織化学的マーカーとして使用します。私たちはダイオキシン投与による一酸化窒素合成酵素とNADPH-diaphorase 活性への影響をロングエバンスLong-Evans 系ラットを用いて調べました。
実験ではオリーブオイルに溶解したダイオキシンをLong-Evans系ラットに1回経口投与しました。投与後1週間、および2週間後の脳をウエスタンブロット法によって調べた結果、一酸化窒素の免疫活性が著しく低下していました。NADPH-diaphorase 組織化学法標本では、視床下部外側野、室傍核、脳弓周囲核において著しいNADPH-diaphorase 陽性細胞数減少が観察されました。このことはダイオキシンによって引き起こされる摂食抑制症状(拒食症)発症の機序に一酸化窒素が何らかの関係をもつ可能性を示唆しています。(Neuroscience Letters, vol. 345: p5-8,2003)
対照群およびダイオキシン投与後1週、2週におけるNADPH-diaphorase陽性細胞を示す顕微鏡写真
A、室傍核; B、脳弓周囲核; C、視床下部外側野。A1,B1,C1;対照群ラット。対照群ではNADPH-diaphorase 陽性細胞および突起は強染されている。A2,B2,C2;TCDD投与1週間後。対照群に比較していずれの領域でも染色強度の低下が見られる。A3,B3,C3;TCDD投与後2週間。投与後1週間よりもさらに染色強度の低下が認められる。(Neuroscience Letters, vol. 345: p. 5-8,2003から引用)