- 実験動物の対物攻撃行動を機械で計る・Calculating aggressive behavior towards inanimate objects using a machine
- 精神疾患モデルマウスの攻撃行動を調べる・Analysis of aggressiveness in psychiatric model mice
- 光くしゃみ反射
Photic Sneeze Reflex - 特定の脳神経細胞に薬を届ける
- 脳の局所血流調節を司る細胞
- 頭部・顔面・口腔領域の血流調節
- 血管調節細胞と分泌調節細胞の形態差
- 副毛様体神経節の発見
- 副毛様体神経節の解剖学
- 今も続くダイオキシン汚染
- ダイオキシンの次世代への脳影響
- ダイオキシンによる前脳の異常
- ダイオキシンによる脳エンケファリン異常
- ダイオキシン摂取による拒食症
- 一酸化窒素が摂食とエネルギーバランスに関係する?
私たち研究グループの研究・Research of our group
ダイオキシンによる前脳の異常
ダイオキシン類の環境放出は著しく減少しましたが、ダイオキシン類は化学的に難分解性ですので、環境中ではほとんど分解されることはなく、現在でも環境中(海底の泥の中)に残存しています(「今も続くダイオキシン汚染」の項を参照してください)。
ダイオキシン類は毒性の高い環境汚染物質です。実験動物とヒトにおいて、ダイオキシン類が身体に広範囲の影響(たとえば成長、生殖、免疫、内分泌の障害)を及ぼすことが知られています。ダイオキシンを実験動物に投与すると、進行性の体重減少、体温下降、運動抑制などの症状が出ます。このような現象が起こることについての病理学的メカニズムは分かっていませんが、中枢神経系の異常に起因する現象であることは容易に推察できます。しかし、私たちの研究発表当時、中枢神経系がダイオキシンによって障害されることを示した明瞭な形態学的証拠は示されていませんでした。ダイオキシンそのものの脳への浸透性は低いと考えられますが、視床下部では比較的高い濃度のダイオキシンが検出されますので、ダイオキシンが中枢神経系に対して直接的毒性をもつ可能性が考えられます。
私たち研究グループは、c-Fos蛋白の発現を免疫組織化学的に調査することにより、ダイオキシンの中枢毒性の作用部位を調査しました(c-Fos蛋白は神経活動のマーカーで、中枢神経系の機能的活性部位の解剖学的マッピングに使用されます)。実験動物にダイオキシンを投与して3日後、c-Fos蛋白免疫陽性細胞は、視床下部(背内側核、室傍核、内側視索前核)、扁桃体中心核、分界条床核に多数観察されました。この結果から、ダイオキシンが中枢神経系に直接的に毒性を及ぼす事が推察されました(Brain Research, vol. 931: p.176-180, 2002。)
扁桃体中心核(A、B)および分界条床核(C、D)におけるc-Fos蛋白発現を示す顕微鏡写真
AとCはダイオキシン投与群、BとDは対照群。対照群に比較すると、ダイオキシン投与群では、両核において著しいc-Fos発現が見られる。CAN、扁桃体中心核; BST、分界条床核。スケールバーは50μm。(Brain Research, vol. 931: p.176-180, 2002から引用)