鹿児島大学 大学院医歯学総合研究科 形態科学(旧 神経解剖学)
口岩 聡 Satoshi KUCHIIWA Ph.D.
鹿児島純心大学 大学院人間科学研究科・人間教育学部 教育・心理学科
口岩 俊子 Toshiko KUCHIIWA Ph.D.

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私たち研究グループの研究・Research of our group

副毛様体神経節の解剖学

 私たちの研究グループは、哺乳動物に共通に存在する眼窩内神経節を発見し、副毛様体神経節と命名しました(前出)。当初、毛様体神経節(主神経節)の副神経節的な存在(単なる神経細胞の飛び地)である可能性が否定できなかったのでこの命名となりましたが、後にこの神経節は主神経節の単なる飛び地ではなく、独立した機能を営む神経節であることが分かりました。

 私たち研究グループは、副毛様体神経節に標識物質を微量注射し、副毛様体神経節を支配する中脳の節前神経細胞(上位中枢)の分布を詳細に調査しました。副毛様体神経節の上位中枢(中脳の節前ニューロン集団)は、主神経節の上位中枢と比較すると、一部重複はありますが、主神経節のそれとは明らかに異なることが判明しました(Journal of Comparative Neurology, 340:577-591,1994)。また、どの動物でも、毛様体神経節を迂回する三叉神経の根が副毛様体神経節に結合しています。中脳の上位神経核に標識物質を微量注射した私たちの研究では、三叉神経根中に標識陽性物質が証明されました。このことは、この神経根には毛様体神経節を経由しない副交感神経節前線維が含まれること示しています(Neuroscience Research, 18: 79-82, 1993)。すなわち、中脳正中領域(左右の動眼神経核に挟まれる正中領域)を起始した節前神経線維の一部が三叉神経に途を取り、毛様体神経節を迂回して副毛様体神経節に到達することが明らかとなりました。副毛様体神経節が、主神経節とは異なる中枢神経細胞の支配を受け、またその輸入経路も主神経節とは異なることは、副毛様体神経節が単なる毛様体神経節の飛び地ではないことを示しています。「眼窩内出血で対光反射と遠近調節反射が失われたにもかかわらず近見瞳孔反射(輻輳反射)が残された」という臨床例が多数存在すること、副毛様体神経節の節前ニューロンが中脳の正中領域に限局していること、これらを考えあわせると、副毛様体神経節は近見瞳孔反射の一部(全部ではありません)を中継する神経節であると推察できます。(人とサルでは明瞭な副毛様体神経節が存在しません。しかし、眼球内に多数の神経節細胞(眼球内神経節)が存在します。古い論文では眼球に接して小神経節(上強膜神経節)が発見されたと報告されています。これらの神経節細胞の一部は他の動物の副毛様体神経節に相当すると考えられます。

三叉神経を経由し毛様体神経節を迂回する副毛様体神経節の節前神経

三叉神経を経由し毛様体神経節を迂回する副毛様体神経節の節前神経

 A、中脳正中部に標識物質を微量注射した(黒の部分)。B、副毛様体神経節(ACG)の神経細胞の周囲に順行性標識物質(輪状に分布する金色の顆粒)が密に観察され、三叉神経との交通枝(CB:矢印)に標識線維が観察された。このことは中脳の副交感性動眼神経核から三叉神経を経由して副毛様体神経節細胞に至る副交感神経節前線維が存在することを示している。副毛様体神経節よりも末梢に結合するもう一本の三叉神経交通枝(CB)には陽性顆粒は認められない。C、副毛様体神経節の節前神経の一部は、動眼神経から三叉神経に合流し、交通枝を介して副毛様体神経節でシナプス形成することを示した模式図。(Neuroscience Research, 18: 79-82, 1993から引用)。

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