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私たち研究グループの研究・Research of our group
ダイオキシンによる脳エンケファリン異常
胎盤を介してダイオキシン類を摂取すると、ラットやサルでは、学習能力が後退することが報告されています。ヒトでは、神経学的発達や認識能力の発達に障害が起こることが報告されています。私たちの研究では、ダイオキシンを胎盤および母乳経由で摂取させると、セロトニンの脳内減少が観察され、また、脳内の一酸化窒素合成酵素(Nitric oxide synthase; NOS)含有量が減少することが明らかになりました。また他の研究者は、脳内のエンケファリン、ドパミン、ノルアドレナリン、ヒスタミン、コルチコトロピン放出ホルモンに影響が見られたと報告しています。これらの研究から、ダイオキシンは中枢神経系に直接的に毒性を及ぼす物質であることが考えられます。
私たち研究グループは、メチオニンーエンケファリン(met-Enk)とロイシンエンケファリン(leu-Enk)のダイオキシンによる影響を免疫組織化学的に調べました。エンケファリンはオピオイド神経伝達物質に属し、中枢神経系や末梢神経系、消化器系、副腎に広く分布し、侵害受容の調節、腺性下垂体のいくつかのホルモン分泌、腸管運動、呼吸運動、拍動調節、摂食、体温、ストレス、運動活性に関係していると考えられています。ダイオキシンを摂取するとさまざまな身体異常が発症しますが、これらの機序にエンケファリンが関係している可能性が推察されました。
私たちは、ラットにダイオキシンを投与しました。すると3日目に、met-Enk陽性細胞、陽性線維および終末の増加が見られ、投与後2週間で最大になりました。増加した部位は、扁桃体中心核、海馬CA3、室傍核、内側視索前核、前交連後脚間質核、淡蒼球外節、淡蒼球腹側部、分界条床核外側部でした。これらの研究結果により、ダイオキシンが中枢のエンケファリン系に影響を与えることが示されました(Journal of Chemical Neuroanatomy, vol. 25, p. 73-82, 2003)。
ダイオキシン投与後2週間におけるメチオニンエンケファリン(met-ENK)の免疫活性の変化を示す顕微鏡写真
A、B:内側視索前核。対照ラット(B)に比して、ダイオキシン投与後2週間(A)における著しいmet-ENK活性亢進を示す。C、D:淡蒼球外節。対照ラット(D)に比較してダイオキシン投与後2週目のラット(C)における著しい免疫活性亢進を示す。E、F:淡蒼球腹側部(VP)と分界条床核(F)。対照ラット(F)に比較し、ダイオキシン投与ラット(E)では両核において著しい免疫活性の亢進を示す。acは前交連。スケールバーは50μm。(Journal of Chemical Neuroanatomy, vol. 25, p. 73-82, 2003から引用)