鹿児島大学 大学院医歯学総合研究科 形態科学(旧 神経解剖学) 口岩 聡

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私たち研究グループの研究・Research of our group

ダイオキシンの次世代への脳影響

 ダイオキシン同族体、ダイベンゾフラン、コプラナーPCBは、環境中に広く存在する環境汚染物質であり、きわめて毒性が強いことが知られており、ダイオキシン類と総称されます。ダイオキシン類は市ゴミの焼却時や工場生産過程で意図せずに産生され、環境中に放出されてきました。現在はダイオキシン類の環境放出は著しく減少しましたが、ダイオキシン類は化学的に難分解性ですので、環境中ではほとんど分解されることはなく、現在でも環境中に残存しています(「今も続くダイオキシン汚染」の項を参照してください)。またダイオキシン類は生体内でも難分解性で、体外に排泄されにくい難排出性物質でもあります。これらの化合物は、食物連鎖を介して濃縮され、その頂点に立つヒトを含む大型肉食動物で最も体内蓄積量が多いとされています。ダイオキシン類は脂肪親和性が高いため、体脂肪に溶解して生体内に蓄積されます。

 ダイオキシン類は胎盤を介して、また母乳を介して母親から子どもに移動します。そして、子どもにさまざまな健康毒性を引き起こすと考えられています。私たちが論文を発表した当時は、中枢神経系がダイオキシン毒性の標的であることはあまり注目されていませんでした。しかし、「妊娠マウスにPCBを投与し胎児にPCB胎盤暴露を受けさせると、産仔脳のドパミンおよびドパミン受容体結合部位が減少した」という報告がありました。また「サルに半慢性的にPCBを投与すると、脳内ドパミンレベルが著しく低下した」という報告もありました。(ドパミンは意欲や快楽などの精神活動に関係する脳内生理活性物質です。)一般に工場生産されたPCBには不純物としてダイオキシン類が含まれていましたので、これらの脳障害は不純物のダイオキシン類が原因であることが疑われました。

 私たち研究グループは、雌マウスにダイオキシン(2,3,7,8-Tetrachlorodibenzo-p-dioxin)を微量継続投与したあとに妊娠させ、胎盤母乳経由で産仔にダイオキシンを摂取させました。産仔が思春期を迎えた頃、脳の縫線核のセロトニン産生細胞について免疫組織化学的に調査を行ったところ、セロトニン産生細胞の著しい減数が観察されました(Neuroscience Letters, 11: 73-76,2002)。セロトニンは穏やかな脳の活動を作る脳内物質です。ダイオキシンを胎盤/母乳経由で摂取したマウスには、正常動物には見られない接触刺激に対する対物攻撃行動(イリタビリティ)が見られますが、その原因がセロトニン障害に起因する可能性が考えられます。

ダイオキシン胎盤母乳暴露を受けたマウス産仔と対照マウス産仔における縫線背核および大縫線核におけるセロトニン免疫陽性細胞を示す光学顕微鏡写真

ダイオキシン胎盤母乳暴露を受けたマウス産仔と対照マウス産仔における縫線背核および大縫線核におけるセロトニン免疫陽性細胞を示す光学顕微鏡写真

 AとB:縫線背核。Aは対照群マウス、BはTCDD胎盤・母乳暴露マウス。CとD:大縫線核。Cは対照群マウス、Dはダイオキシン胎盤・母乳暴露マウス。対照群(オリーブオイル投与)に比較すると、胎盤・母乳TCDD暴露マウスの縫線核セロトニン陽性細胞は著しく染色性が弱化、かつ減数している。スケールバーは50μm。(Neuroscience Letters, 317: 73-76, 2002から引用)

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