鹿児島大学 大学院医歯学総合研究科 形態科学(旧 神経解剖学) 口岩 聡

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私たちの特許

実験動物の対物攻撃行動を計測する機械
(機械を使って動物の攻撃性を評価する)

口岩 聡

特許第4858996号(明細書)

発明の名称 刺激応答計測装置および刺激応答計測方法
特許権者 国立大学法人 鹿児島大学
発明者 口岩 聡、口岩 俊子、村上 理
特許査定日 平成23年11月11日

攻撃行動計測システム Aggression Response Meter: ARM(室町機械株式会社)

 本システムは精神疾患モデル動物の接触刺激に対する行動学的応答性(対物攻撃行動)を計測する研究機器です。対物攻撃行動とは、無生物に対する攻撃行動のことで、精神疾患を有する動物に特徴的に現れる異常行動です(詳しくはこちらをご覧ください)。本装置は対物攻撃行動を計測することにより、動物の攻撃性を評価します。

 対物攻撃行動の多くは、身体に接触する物体、または、眼前で動き回る物体などに対して起こります。例えば、実験動物を棒で突いた時に、動物がその棒に噛み付くような行動です。身体に触れる物体による刺激が痛みを発生する場合には 動物はその物体に対して対物攻撃行動を起こしてその物体を排除しようとするのが普通です。しかし、痛みを伴わない些細な接触刺激の場合には 動物は必ずしもその物体に対して対物攻撃行動を起こすとは限りません。動物がその接触刺激を煩わしいと感じれば その刺激物体に対して対物攻撃行動を起こすでしょうし、煩わしさを感じなければ その物体を無視するでしょう。

 一般に、実験用に品種改良されたネズミは性質がおとなしく(攻撃性が乏しく)、痛くない接触刺激に対しては対物攻撃行動を起こしません。しかし、遺伝的に穏やかな動物でも、後天的な要因によって攻撃性を新たに発現することがあります。たとえば、ストレスは攻撃性発現のリスクファクターのひとつなので、慢性的にストレスを負荷すると 攻撃性が発現することがあります。新生児期における母親からの隔離、捕食動物の臭気、離乳後の隔離飼育など、さまざまなマイナス環境が 攻撃性発現の要因となります。

 攻撃性を発現した実験動物は、痛みを伴わない軽い接触刺激に対しても容易に対物攻撃行動を起こします。したがって、実験動物の対物攻撃行動の強さや発現頻度を調べれば、動物の精神状態が分かります。実験動物が対物攻撃行動を起こすかどうかは、動物の精神状態に依存すると考えられるからです。攻撃性を有する実験動物が精神的にイライラした状態にあるとき、鬱様症状を有するとき、ストレス負荷状態にあるとき、病的なイリタビリティ(易怒性)亢進状態にあるときなどに 対物攻撃行動が顕著に起こります。

 欝病や統合失調症を始めとする精神疾患モデル動物は、向精神薬の開発における前臨床研究において不可欠です。向精神薬開発研究では、薬を精神疾患モデル動物に投与し、不安、鬱様症状、攻撃性、新奇探索傾向、統合失調症様症状などの変化を調べ、薬の効果を評価します。対物攻撃行動は、これまで適切に評価する方法が確立されていませんでしたので、この行動を精神疾患の指標として使用することはできませんでした。しかし、私たち研究グループが開発したARMにより、動物の対物攻撃行動を機械的に効率的に計測することが可能となりました。対物攻撃行動は接触刺激に対する反射的行動ですので、同一動物の反応を何度でも調べることが可能です。薬を与える前と後を比較することで薬の効果を知ることもできます。また、長期間の投薬で動物の症状がどう変化するか、また一生の間に動物の攻撃性がどう変化するか、同一動物で調査をすることも可能です。

製品化前の攻撃行動計測システム(Aggression Response Meter, ARM)試作機。
(Journal of Neuroscience Methods, 2014, vol. 228, pp.27-34: Kuchiiwa and Kuchiiwa に発表。写真は当論文から引用) 

後肢で刺激棒を蹴り払うストレス障害モデル動物

刺激棒を無視する正常動物

上のビデオはストレス障害マウス、下のビデオが正常なマウスです。マウスは集団生活をする動物なので、長期間単独で飼育するとストレスがたまり、ストレス障害(攻撃性)が現れます。(このようなマウスは鬱様症状または統合失調症様症状を有するので、欝モデル動物または統合失調症モデル動物として研究に利用されています。)ケージの下から2本の刺激棒が上昇し、マウスの足の裏を持ち上げます。棒は太く、速度もそれほど速くはないので、マウスが痛みを感じることはありません。集団飼育している健康なマウスは刺激棒の動きに対して無関心ですが、長期隔離飼育マウスでは、刺激棒に対して過敏に反応し、後肢で刺激棒を蹴り払います。この異常行動は、接触逃避行動と呼ばれています。

刺激棒に噛みつくストレス障害モデル動物動物

刺激棒を無視する正常動物

 ストレス障害を有するマウス(上)では、刺激棒の動きに我慢ができず、棒に激しく噛みつきます。健康なマウス(下)は、棒に噛みつくことはほとんどありません。ストレス障害動物に見られる対物攻撃行動は、このような痛みを与えない些細な刺激に対して怒りを発現するイライラの症状です。症状の悪化に伴い対物攻撃行動が増強し、逆に治癒が進むと対物攻撃行動は弱くなります。対物攻撃行動の強度を計測することで、動物の精神症状を評価することができます。

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特定の脳神経細胞に薬を届ける

特許第4945766号(明細書)

発明の名称 脳神経細胞への薬物の標的化剤
特許権者 国立大学法人 鹿児島大学
発明者 口岩 聡、口岩俊子
特許査定日 平成24年2月17日

脳の特定の神経細胞だけに薬を届ける(ヴィークル法)

脳の病気の多くは、中枢神経系内の特定の神経細胞集団の異常や神経伝達物質の異常によって発症します。たとえば、黒質のドパミン異常によるパーキンソン症候群、縫線核や大脳前頭連合野におけるセロトニン異常が関係する鬱病や自殺、小脳のプルキンエ細胞の障害による運動調節異常などです。これらの病気の治療では病巣となっている神経細胞に選択的に薬を投与することが必要ですが、実際には、これらの疾患の治療のために作られた薬物が疾患に対して著効する例はそれほど多くはありません。その原因の一つとして考えられているのが中枢神経系に存在する血液脳関門と呼ばれる神経細胞を保護するためのバリアです。血液脳関門は血液中に含まれる必要な物質を神経細胞が選択的に取り込む、あるいは神経細胞に不要な物質を選択的に排除する脳の機能です。このバリアが存在するため、薬物は中枢神経細胞内に容易に入り込めず、薬が有効に作用しないことが多いのです。血液脳関門を通過しやすい薬物を使用することも考えられますが、薬が標的の神経細胞だけではなく脳のいたる所で作用するので、深刻な副作用が現れる可能性もあります。

そこで、私たちの研究グループは、病巣となっている神経細胞集団に選択的に取り込まれる物質(ヴィークル:標的化剤)を探し、その物質に目的の薬物を結合させて標的の神経細胞集団に集中的に薬を届ける方法を考案しました。投与したい薬物をヴィークルに結合させ、脳を取り囲む脳脊髄液中に(腰椎穿刺でクモ膜下腔に)注射すれば、標的とする細胞集団だけに選択的に薬を届けることができるという理論です。

この理論を実証するため、私たち研究グループは、コレラ毒素を無毒化した物質(コレラトキシンBサブユニット:CTB)をラットのクモ膜下槽に微量注射し、この物質がヴィークルの役目を果たすかどうかを調査しました。その結果CTBは、セロトニンを合成する縫線核の細胞集団および運動を調節する小脳のプルキンエ細胞、その他数カ所の神経細胞集団に選択的に取り込まれて、それらの神経細胞内に貯蔵されることが明らかとなりました。

セロトニンの調節異常に起因する精神疾患には、鬱病、自殺、パニック、睡眠障害などさまざまなものがあります。また多くの運動調節障害疾患に小脳のプルキンエ細胞が関係しています。これらの疾患をもつ患者に対し、CTBのような性質があるヴィークル(標的化剤)に神経伝達物質の合成酵素または代謝酵素などの薬効成分を結合させて作製した新薬を投与すれば、これらの神経伝達物質を産生する神経細胞に選択的に薬物を取り込ませることができると考えられます。これにより、これまで治療法がなかった疾患に著効する新薬ができる可能性があります。この方法では、薬物を取り込む神経細胞は特定の細胞だけに限られていますので、副作用を著しく抑制できる可能性があります。また、薬はそれらの神経細胞の中に限局的に蓄積されますので、代謝される速度がきわめて遅いことが予想されます。したがって、一回の注射によってかなり長期的に薬の効果が続くという利点も予想できます。さらに、ヴィークルはさまざまな薬物の運び屋となりえますので、症状に最も適合する薬物を最も効果的に病巣の神経細胞集団に処方することが可能であると考えられます。私たち研究グループは、多くの新薬開発にこの方法が使用できる可能性が高いと考え、実用化に向けて研究を行っています。

ヴィークル法(標的化剤法)の理論

ヴィークル法は、標的化剤と目的の薬効成分を結合させた薬物を作製し、それを脳脊髄液(脳を取り巻く液体)の中に注射する方法です。脳の特定の神経細胞(小脳のプルキンエ細胞や脳幹セロトニン産生細胞など)だけがヴィークルを取り込む性質がありますので、この性質を利用すればこれらの細胞に希望の薬物を限定的に投与することが可能になると考えられます。

ドラッグデリバリーシステムとの相違点

特定の細胞に選択的に薬を届けるという点では、ヴィークル法とドラッグデリバリーシステムは似ていますが、ドラッグデリバリーシステムでは脳の特定の神経細胞だけに薬物を届けることができません。ドラッグデリバリーシステムで扱われる多くの物質は血液脳関門と呼ばれるバリアを通過することができないからです。そのため、現時点では、脳の神経細胞に有効なドラッグデリバリーシステムは存在しません。私たちのヴィークル法は、血液脳関門の内側(脳脊髄液中)に薬物を直接注射するので、血液脳関門の制約を受けずに標的の神経細胞に薬物を届けることができます。

ヴィークル法の原理

脳と脳脊髄液の間には髄液脳関門と呼ばれるもう一つのバリアがあり、両者間の物質の移動は制限されています。したがって、脳脊髄液中に薬液を注射しても原則として脳実質中には取り込まれません(図a)。髄液脳関門を通過する薬物もありますが、その場合には脳全体が薬に浸され、副作用のオンパレードになってしまう可能性があります(図b)。

私たち研究グループは、脳の一部の神経細胞(小脳プルキンエ細胞や脳幹セロトニン産生細胞などの標的細胞)の樹状突起が脳脊髄液中に伸び、脳脊髄液と接触していることを発見し、これに注目しました。私たちは、「これらの細胞と結合しやすい高分子化合物(ヴィークル:図の●)を脳脊髄液中に注射すれば、これらの標的細胞だけにヴィークルを取り込ませることができる(図c)」、そして、「ヴィークルに任意の薬効成分(図dの赤矢印)を結合させて標的細胞に取り込ませれば標的細胞だけに目的の薬を届けることができる」 と考えました。ヴィークルは髄液脳関門を通過できないので、標的細胞以外の神経細胞に薬が浸透することはありません(図d)。標的以外の細胞には薬効成分は届かないので副作用は非常に少ないと考えられます。

ヴィークルを取り込んだ神経細胞(顕微鏡写真)

脳脊髄液中にヴィークルを微量注射したあとの縫線核の顕微鏡写真です。縫線核セロトニン細胞の一部だけがヴィークルを取込み、茶色に染まっています。他の神経細胞(青)にはヴィークルは取り込まれていません。縫線核の細胞は、その樹状突起を脳室内に伸ばしているため、脳脊髄液中に存在するヴィークルを取り込むことができます。他の細胞は上衣細胞の壁(髄液脳関門)に阻まれ、ヴィークルを取り込むことはできません。

ヴィークルを取り込んだ小脳プルキンエ細胞(顕微鏡写真)

脳脊髄液中にヴィークルを微量注射すると、小脳の分子層と顆粒細胞層の間に位置するプルキンエ細胞の細胞体が茶色に染まります。分子層が全体的に茶色に染まっているのは、プルキンエ細胞の樹状突起が分子層に密に分布しているからであり、分子層のカハール細胞などがヴィークルを取り込んだのではありません。顆粒細胞にはヴィークルの取込は見られません。

薬を取り込んだ神経細胞(顕微鏡写真)

ヴィークルに模擬薬を結合させた液を少量 脳脊髄液中に注射したあとに、脳室から少し離れた縫線核ニューロンに模擬薬が検出されました。矢印は模擬薬を取り込んだ縫線核ニューロンです。このことは、薬がヴィークルによって縫線核ニューロンに輸送されたことを示しています。

接触刺激に対する動物の応答行動を計測する

発明の名称 刺激応答計測装置及び刺激応答計測方法
特許権者 国立大学法人 鹿児島大学
発明者 口岩 聡、口岩俊子
公開番号 特開2008-259758
公開日 平成20年10月30日

こちらをご覧ください。

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